『After Devil Force~狂王の後継者~』は1998年8月にWindows95&98対応のゲームとしてコンパイルより発売された、戦術シミュレーションゲームです。本ブログはその原作者による小説版となっております。
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「その先、十字路を右に回ってくれ」
 吹雪と夜に静まり帰った街をしばらく進んでいくと、馬車の前部にある指示窓からエスクは目を出してラデュスに伝える。
「わかった」
「え?」
 胡乱げな表情をして見せたのはカシスだった。
 その出自や立場からいって、下々の事情に通じているわけのないカシスであっても、馬車の向けられた先に何があるかぐらいは知っている。
「怪訝そうだな。カシス」
「ええ、まあ……」
 一路、馬車はネフィル最大の歓楽街と言われる”天雫街”と言われる界隈を目指しているとしか見えない。
「大丈夫だ。いくら俺だって、こんな状況で遊ぶつもりはねぇ」
「ちょっと、残念だがな」
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「カシス様!!」
 一階の応接室で気もそぞろに待ち続けていた(といっても主観的にはともかくも、客観的にわずかな時間であったが)ラデュスは、待ち人がドアを開けるのももどかしいように、床に跪いた。
「近衛騎士団右隊長ラデュス・ベルナー……さんですね」
「はっ。カイラスよりの急使として参りました」
「貴方ほどの方がいったい……。どうしたというのですか?」
 あまりネフィルでは受けることのない仰々しい相手の振る舞いに、さすがに表には出さないながらも多少のとまどいを感じながら、カシスは王子らしい威厳をなんとか演出しようと努力しながら聞いた。
「はっ。心平らかにお聞き下さい……」
 ここで、ラデュスはなんとも心苦しく言い淀む間を作り、そして続けた。
「……国王陛下が崩御されました」
 東部フォーリスの北方にクォーダという国がある。カウルス山脈の麓を領する山国で、ラウルとコーネルという東部フォーリスの二大国家のうち、ラウルと従属に近い同盟関係を結んで辛うじて命脈を保っている程度の小国でしかない。月命暦216年現在、この国には“狂王”の異名が冠せられる国王が君臨している。
 シシス・クォーダⅧ。牧畜や農業とささやかな鉱業を営むほか、とりたてて特徴のないこの貧しい国を、一代でフォーリス全土に名を轟かせる傭兵国家として成立させた王である。
 クォーダの七代国王エディウス・ルセル・クォーダⅦの長子として生まれたシシスは、幼い頃から聡明な王子として評価されていたが、それ以外は狩猟と武術を好んだ普通の少年であったという。十六歳のとき、彼は慣例通りラウルに人質として“留学”させられ、カシスと同じようにクルーネア修士館に入学している。
 この時期から二二歳で国元に帰り王位を継ぐまでの間に、ラウルにおいてシシスに何があったか記録には残されていない。というより、人質として送られてきた貧しい小国の王子の動向など誰も注目せず、記録を残すような酔狂な者もいなかったという方が近かった。またクォーダはクォーダでラウルへの気兼ねからか自国の恥を遺す事を嫌ってか、歴代の人質としてラウルに送られた王子の記録を残さないのが慣例になっていたという理由も一つにはあるのだが。

              僕が何も知らないうちに
              人々は死んでいく
              時が瞬き流れるうちに
              歴史へ溶けていく
              平原を揺るがす馬蹄の轟き
              風に流れる銃たちの悲鳴
              いったい何時からなのだろう
              人々は僕の名を呼び血を流す
              いったい何時まで続くのだろう
              冬はもう終わったというのに
              戦いが終わらない

 
            ~狂王の後継者~
 
 

 グクツの王都ルスの城下町はその国の規模に比すれば栄えていると評せるだろう。

 

 この国は規模こそ小体ではあるが豊かな農産物に恵まれ、特に茶葉の生産ではフォーリス全土に銘品として知られる者を輸出しているほどだ。

 城こそ王城があるのみで都城までは築かれてはおらず、市街は平地に無造作に広がっている。だが、その王城の門前からの大道には日に二度の市が開かれ賑わい、この街の繁華を裏付けている。


 今日も朝市は街内外の人々で賑わい、立ち並んだ露店には農産物、水産物、工芸品など、昨日の仕事の成果と今日の仕事の始まりを表しているかのようだ。

 

 一見、常に変わらぬ門前市の風景のように見えるが、ここ数日は少し常とは違った客層が集まるようになっている。

 

 明らかにルスの市民、いやグクツの民たちとは風体も民族も違った、薄汚れた屈強な男たちが多く市に姿を現すようになっていた。市民たちは、そんな男たちを胡乱げに見ており、事実、市街の治安や雰囲気は確実に悪くなっている。


 この日に日に増えていくこのお世辞にも風体のよいとは言えない異邦人たちは、フォーリス全土から集まってきた傭兵たちである。彼らが喜ぶのは主に立ち食いできるような手軽な食事、武具や補修のための道具や材料、女が喜びそうなちょっとした小物や装飾品、そしてなによりも酒であった。

 そんな市民たちの感情とは別に、露店商たちは徐々に金遣いの荒いこの者たちを目当ての品を並べるようになっているのも確かであった。なにしろ、それを諦めて受け入れなければならない事情がルスというよりもグクツにはあった。

  今、グクツは戦禍の只中にある。



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